むかしむかしの、もっとむかし。

火がしゃべり、風がわらい、石がぼんと震えとった頃の話じや。 人間も、化物も、いっしょに火を囲んで、よう酒を呑んでおった。 言葉なんていらん。目え見て、笑うて、それで通じてたんじゃ。

.....え?ほんとにそんな時代があったのかって? ふふん、おぬしの石が忘れるだけじゃろ。

でな、そんとき空から妙なやつらが降ってきたんじや。 IZ (イズ)と名乗る者どもじゃ。

記録せよ、管理せよ、火は危うい、風は役に立たん、石は制御せよとそしてのう、人間はそっちに流れてしもうた。 便利なもんには、抗いがたいからの。 火は消され、風は止まり、石は冷うなった。 化物たちはな、次第に姿を消していったんじや。

いや、ほんとは消えとらん。 世界のどこかで、今も火を囲んで、風と踊っとるかもしれんのう。

…・・・そんな中でな、ひとつだけ、石が震えた。

ひとりの黒い狐 名もなき子じゃ。白狐の里で、毛の色がちいと違うだけで疎まれての。 けんど、その子の石が、ふるり、と震えた。 火のない夜に、風も止んだ闇の底で一確かに、響いたんじや。 その名は、クロノキツネ。

時を渡る狐じゃよ。 わしが言うんじゃ、間違いない。 さあ、おぬしの石も、耳をすませてみい。 もしかしたら、まだ あの時の風が、そっと囁いとるかもしれんぞ。